2022年1月17日 (月)

アメリカで見つけた、おもしろ新技術(11); 超微細構造

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第11回は超微細構造を作っている先生の話。

 

California Institute of Technology (Caltech) にJulia R. Greerという先生がいる。彼女の研究室では、とんでもなく微細な構造物を作っている。

2つのレーザービームを照射してポリマー材料を硬化させる2ビーム硬化による微細造形で、梁構造を階層上に形成する技術だ。下の写真をみればわかるが、ひとつの塊の大きさが数十ミクロンで、梁のひとつひとつはナノメーターのサイズだ。

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(Image: micrographs of example nanotrusses fabricated by Prof. Julia Greer's group at Caltech.)

 

写真ではコントラストがあるが、実際には白いカスミのような“物体”で手のひらに載せても重さを感じないほど軽い。エアロゲルによく似た性質に感じられた。この材料の特徴は軽いだけではなく、加重に対して非常に強いことだ。エアロゲルも軽いが、構造的にはアモルファス状なので、強度ではこの材料の方がはるかに強靭だろう。梁の組み合わせで構成されているので、設計段階での強度計算も可能で目的に合わせた最適な構造を設計することができる。

さらに、構造の作り方によっては伸縮変形にも対応できるという。彼らはこれを“メタマテリアル”と呼んでいる。

(一般にメタマテリアルと呼ばれているものは、表面プラズモンの周期構造による電磁波に対する負の屈折率材料のことを言い、彼らはそれとは別の意味でメタマテリアルと呼んでいる。)

これが実用化されれば、超軽量の構造体ができるので、車や航空宇宙、ロボット、衣類や防護服など用途は無限に広がる。夢のような話ではあるが、最大の課題はコストだろう。2ビーム硬化は製作時間が長く装置も大掛かりなので、コストは高くなるだろう。まずは高コストでも使えるアプリケーションを探すことになる。

 

 

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2022年1月 8日 (土)

アメリカで見つけた、おもしろ新技術(10); スパイダーシルク

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第10回はスパイダーシルク、つまり“くもの糸”だ。

 

くもの糸は機械的強度が強いことで知られている。これを人工的に作ることができれば、たとえば防弾スーツや航空機の機体に応用できる。大学や多くの研究機関で長年研究に取り組んでいるテーマだ。

 

スパイダーシルクの開発には大きく2つのアプローチがある。一つは、DNAを操作した蚕に“くもの糸”を作らせる。もう一つはDNAを設計してタンパク質を合成するアプローチだ。いずれも実用化には至っていないが、試作品はできている。

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(Image: Kraig Biocraft ウエブサイトより)

 

タンパク質を合成する方法では、タンパク質を合成すること自体はそんなに難しくはないらしいが、それを大量生産したり、強固な結合をして糸に加工するのが難しいという。

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(Image: Bolt Threads)

 

すでに世界でいくつかのベンチャー企業が立ち上がっており、そういった加工技術や用途開発を行っている。以下は有名なスタートアップと彼らの特徴まとめたものだ。

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2021年12月 3日 (金)

海外に住む日本人に冷たい日本

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オミクロン株の出現で岸田総理の対応は早かった。世界からの外国人の入国を禁止した。しかし、国交省がやりすぎた。海外にいる日本人に対して、帰国のための航空券を販売停止にした。そして、その3日後にそれを撤回した。しかも、日本人も入国禁止にすると言わずに、航空会社に切符を売るなと指示するところがセコイ。国交省の監督の範囲で忖度するとこうなったということか・・

日本に住んでいる人には関係のないことなので、ことの重大さが分かりにくいかもしれないが、海外在留邦人にとっては「日本に帰って来るな」と言われているワケで、日本から切り捨てられたという悲しい気持ちになる。

日本政府はわれわれ海外に住む日本人を本当に守ってくれるのだろうかと、いつも不安に感じながらアメリカに住み続けている、というのが正直な気持ちだ。

以下は、私の個人的主観ではあるが、多くの海外在住の日本人の皆さんが共通して感じていることとして、日本の皆さんにも知っておいていただきたいと思う。

 

日本という国は海外在留邦人に冷たい

20年近くアメリカに住んでいて、常に感じていたのが、この日本政府の冷遇だ。政府だけではなく、日本の国(政府や社会、そして個人)はびっくりするほど、海外に住んでいる日本人に対して冷たい。

海外在留邦人も国政選挙の投票ができるようになっている、だから冷遇されているわけではない、という反論もあるだろう。しかし、海外から自国の選挙に投票できるのは世界の当たりまえで、日本だけがやっていることではない。当然の国民の権利だ。

 

コロナでの海外からの帰国者への冷たさ

この2年間のコロナの対応でも、海外の日本人に対する“厳しさ”が目についた。

まず、私自身が日本に行ったとき、日本の知り合いから「君のような海外から来る日本のビジネスマンが、ルールを守らずに出歩いて感染を広めている!」と言われたことがある。まあ、そういう人もいるだろうけど、驚いたのはコロナの感染について、日本では個人が個人を攻撃するということだ。海外から帰ってきた日本人に対して、日本に住んでいる日本人が攻撃をする。本来、避難すべきは適切な対策を取らない行政であって、個人ではないはずだ。

もう一の事例は聞いた話だが、九州にいる親の危篤で帰国した女性が、成田空港からの移動手段がなく、ホテルに滞在したのち諦めてアメリカに戻ったという。結局、親の死に目に会えなかった。誰が考えてもおかしいだろうと思う。オリンピック関係者には特例を認めておいて、自国民の(不要不急とは言えない)特別な理由に対しては規則を厳格に適用する。

 

的外れなNHK

地域もよるが、アメリカのテレビを地上波放送でみると、メジャーな放送局は1つか2つしかなく、あとは古い番組を繰り返しているチャンネルや外国の放送ばかりだ。その外国の放送には、スペイン語(メキシコ)、中国語、韓国語、ベトナム語、など多くの国のチャンネルがあって、自国の番組に英語のテロップを付けて放送している。地上波の無料放送のなかに、日本語のチャンネルはない。

アメリカで日本語の放送はケーブルテレビの「テレビジャパン」というチャンネルがひとつあるだけだ。そこで放送されているのは主にNHKワールドJAPANいうNHKの”英語放送”と一部の日本語番組だ。

つまり、NHKワールドJAPANは海外の外国人に向けた、日本からの情報発信であり、海外にいる日本人のためのものではない。

30年前までは、これでも良かったのだろう。しかし、海外に住む日本人が増えた今、海外在留邦人が求めるのは”日本のPRのための放送”ではなく、日本人が日本人として欲しい情報やエンタメの放送だ。NHKはそれを理解せずに、延々と”英語での日本の放送”を続けている。(これでは、”海外への発信をしています”という総務省へのアリバイ作りのためにやっているのではないかと勘繰りたくもなる。)

数年前からNHKのオンデマンド配信の3番組が1日遅れでアメリカも見られるようになって、インターネット経由で日本語ニュースがそのまま視聴きる。しかし、これは国内の民放のオンデマンドサービスに対抗するためのもので、その一部を海外ら視聴できるようにしたにすぎない。

ちなみに民放のオンデマンドサービスは海外では視聴できない。

 

JRパス

日本に住んでいると関係のない話だが、ジャパン・レール・パスというのがある。インバウンド促進のツールとして、JR6社が共同で提供している、外国からの旅行者が使える有料で期間限定の周遊乗車券(のぞみ、みずほ除く)だ。ヨーロッパ、アメリカや南米等で永住権を持っている日本人も購入することができる。

これは、海外に住んでいる日本人にとって、唯一の”特典”のようなものだった。上に書いたように、いろいろな場面で日本から冷遇されていると感じながら生活している海外在留邦人にとって、ただ一つ”日本人でよかった”と思えるものだ。

ところが2016年にJRは、このパスの日本人(海外在留邦人)の購入を認めないと発表した。つまり、アメリカに永住権を持っていても日本国籍の人は買うことができなくなる。まして、アメリカやブラジルに移民できた人たち(現地では彼らのことを”一世”と呼ぶ)も、この対象となった。これは、ただ単にJRの周遊券を買えないという問題ではなく、”日本から切り捨てられた”という悲痛な思いを与えるものだった。当時の移民は国策によるもので、移民してきたとは言え日本を捨てたわけではない、という悲しい気持ちになる。

ブラジルの日系社会を中心とした嘆願運動で、結局JRは2020年のオリンピックまで(延期に伴い2023年に延長)という期限付きではあるが、永住権を持つ日本国籍の人にも販売を認めると、方針を転換した。

結果はこれでよかったのだが、ここでも海外に住む日本人の存在を無視した施策が行われたことに、残念な気持ちにさせられる。

 

日本への思いは日本にいる人よりも強い

日本は島国で地理的には世界から分離されているから、行政や公共サービスは国内に限った考えをするのも判らないではないが、もう少し海外に住む日本国民のことを意識してもらいたいと思う。

そして、個人としての立場では、日本を出て行ったヤツに配慮してやる必要はないと、漠然とでも思っている人が多いのではないだろうか。

海外に暮らしている日本人は、個々にいろんな事情で日本を離れているが、”日本を捨てたワケではない”という思いをみんな持っている。むしろ日本にいる時よりも強く日本を意識して、”日本のために何かしたい”と思いながら海外で生活していることを分かってほしいと思う。

人の動きがグローバルになっている今、国土は限られているが日本国民は世界中にいるという認識で、政治や行政を進めてもらいたいと思う。もそして個人の意識もそうなってほしいと願う。

 

 

 

 

 

2021年11月26日 (金)

アメリカで見つけた、おもしろ新技術(9); DNAは設計図

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第9回はバイオ技術の話。バイオインフォマティクスという言葉を聞いたことがあると思う。言葉の通り、生物学と情報工学を組みあわせた領域だ。当初は人などの塩基配列をデータベース化して活用するところから始まったが、いまでは新材料の開発にまで応用されている。

 

直近の話題としては、mRNAを用いたワクチン開発があった。

 

ワクチンは、人間の体が持っている「免疫応答」という作用を利用して抗体を作る”きっかけ”になるものだ。その”きっかけ”となるものとして、毒性をなくしたウイルス自体をワクチンとして使う。大量に作るためには、そのウイルスを培養して増やす工程が必要で、大量生産するのに何ケ月もかかる。もちろん、新たに作るワクチンは有効性や安全性を確認するために10年単位の時間がかかる。

 

mRNAワクチンは、ウイルスのスパイク部分のタンパク質の塩基配列を写し取った”設計図”で、それを基にしてスパイクタンパク質を合成することができる。その” 設計図”を人間の体の細胞内に取り込むと、細胞の持つ機能を使って細胞の中でスパイクタンパク質を作ることができる。ウイルス本体はどこにもなくて、スパイクだけが”生産”される。そのスパイクタンパクができると「免疫応答」が起こって抗体が作くられる。

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mRNAは、ウイルスのスパイクタンパクのゲノム解析をすることで”コード”の配列が分かれば、それを化学合成の手法で人工的に作り出すことができる。ウイルスを培養するよりもはるかに短時間で大量生産できる。

 

一方、DNA/RNA を解析して、新しい素材を作る研究が盛んにおこなわれている。

 

ボストンにあるGinkgo Bioworksという会社を数年前に訪問する機会があった。MITのTom Knight教授が2008年に設立した会社だ。Tom Nightは電子工学の教授で、1990年代に、「ソフトウエアはバイオロジーになる!有機合成はプログラムで設計する時代がくる。DNAがコーディングとして使われる。」と予測してバイオインフォマティクスの研究を始めた。

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この会社は、プロセスを自動化して膨大なDNAシーケンシングを続け、それをデータベースに蓄積している。ゲノム解析の結果と元のタンパク質が持つ性質(硬いとか、軽いとか、光学特性、匂い、反応など様々な特性)を関連付けている。それを逆に使うことで、目的とする性質を設定すれば、どのタンパク質が該当するかを見つけられる。そのゲノム情報から、そのタンパク質を構成するアミノ酸とその組み合わせ方を設計する。実際のアウトプット(製品)はエンザイム、つまり酵素だ。エンザイムはタンパク質を合成するための触媒として働く。目的のタンパク質を合成するためのエンザイムを設計して作り出すことで、その後の工程で目的の素材を生産することができる。

 

洗剤や匂いビーズ、塗料、フィルム、パッケージ材料などや、将来は合板などの建材、そして機体や車体といった構造材料まで可能性を秘めている技術だと思う。

 

 

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2021年10月 4日 (月)

日本の購買力

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眞子様とKKさんのニューヨーク生活について、日本のマスコミが盛り上っているが、本質を見ていない議論に、いまの日本の危うさを感じている。

 

ニューヨークの家賃や物価が高いことや、新任の弁護士の給料が2千万円ももらえることをことさらに取り上げている。その裏には、日本は物価が安くて住みやすいので安心だ、という心理が隠れている。これが大きな間違いなのだ。

 

アメリカは物価も高いが給料も高い

 

ニューヨークに限らず、アメリカの主要都市では物価が高い。シリコンバレーの家賃はおそらくニューヨークと同じかそれよりも高い水準だろう。ロサンゼルスとその周辺も家賃や住宅価格が高騰している。もう若い人が家を買うのは大変な状況になっている。

 

アメリカでは物価も高いが、給料も高い。弁護士に限らず、博士号を取得した新卒のエンジニアの初任給は$150,000から$200,000だ。日本円で1,600万円から2,200万円だ。弁護士だけが特別なワケではない。アメリカは最低賃金の水準も高い。レストランのパートタイムの最低賃金も1時間$15(約1,660円)だ。

 

日本の問題は給料が上がらないこと

 

問題は、世界の中で日本だけが物価が安く、給料も安い状況になっていることだ。過去20年間、日本の企業は内部留保を増やすばかりで、将来への投資や従業員の給料には金を使ってこなかった。その結果物価は横ばいで、給料は実質減という状況が続いている。

 

また、政府や日銀は常に低金利と円安の政策をとっていて、1ドル100円から110円の為替レートを維持してきた。自動車や家電、一部の素材などの輸出産業はそれで潤ったが、日本への投資が増えることはなかった。

 

海外との差が広がる

 

その間に米国もアジアも好景気が続いて、物価も収入も上昇を続けてきた。OECDの統計では、日本の平均賃金は韓国よりも低い。日本だけが取り残された形で、日本人は貧乏な国民になっている。

 

 

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(出展:OECD統計データ)

 

問題は、日本の社会がこの事実を直視せずに放置していることだ。個人の生活としては、日本の国内で働いて国内だけで消費していれば、この問題は見て見ぬふりができる。海外旅行は高いけれど、頻繁にいくワケではないので気にならない。

 

しかし、企業の経済活動ではそうはいかない。海外からの調達や情報収集、出張や駐在員の派遣など、海外とのかかわりは無視できない。

 

このブログでも10年も前から日本人の給料が世界に比べて安いことを指摘してきた。そしてここにきて、さまざまな場面で弊害が出ているのだ。

 

直近の事例では、日本企業にアメリカの大学との共同研究を持ちかけても、費用の高さに驚いて、ほとんど成立しない。例えば、カリフォルニア大学と共同研究をするためには、最低でも年間1,500万円は必要だ。

 

別の話では、日本からの駐在員の家賃が日本の家賃の2倍はしているので、本社の人事部の理解が得られないケースがある。家賃の安い地域は治安が悪いという事情も理解されにくい。

 

原因は日本の購買力

 

一言でいうと、相対的に日本の購買力が落ちているということだ。日米間の肌感覚としては、米国で活動するためには日本の倍の費用がかかるという印象だ。それを承知で出費を覚悟できる企業は良いが、多くの企業は費用の高さに驚いて、海外での活動に二の足を踏む状況が増えているように思う。

 

よく似た言葉で「購買力平価」というのがあるが、これは為替レートの理論であって必ずしも現実を正確に反映するものではない。ここで言いたいのは、日本人が(日本企業が)海外でモノやサービスを買う力だ。具体的に言うと、

 

国内の物価が安いから、アメリカでの費用が高く感じる。

円が安いから外国で買い物をすると高く感じる。

アメリカの大学は授業料が高くて留学できない。

日本は給料が安いから、海外からの優秀な人材が集まらない。

 

購買力低下の原因は、為替政策であったり産業構造であったり派遣労働者の格差だったり構造的な問題が多い。また、企業はバブル崩壊以降一貫してベースアップをせずに内部留保に専念した。その結果、日本人の給料は横ばいで、日本全体の購買力も低下した。

 

復活のカギは個人のスキルアップ

 

個人でこの状況に対応する最も確実な手段は、海外に収入源をもつことだ。シンガポールに出稼ぎに行く。アメリカに家を買って賃貸収入を得る、といったことをすれば強い通貨で収入を得て弱い円で消費することができてお得だ。実際に、シンガポールで就職をしたという若者の話も聞いたことがある。ただ、これでは根本的な解決にはならない。

 

この問題の解決には、政府の政策転換も重要だ。岸田内閣が掲げる再分配の具体的な政策はまだ見えていない。再分配は成長とセットでなければ実現しない。その成長を促すためには企業の生産性の向上が必要だ。そして、生産性を高めるためには、雇用の流動性を高めることが必要だと考える。

 

日本企業の雇用形態の特徴は、終身雇用と年功序列だ。そのため雇用の流動性が著しく低い。さらに、リーマンショックのときに企業と組合は、雇用を守ることを優先してベースアップをしない選択をした。これが悪いとは言わないが、その後10年間も同じ枠組みを維持したことで雇用の流動化がさらに起きづらくなった。

 

終身雇用や年功序列を変えていこうという動きはあるが、なかなか進まない。”ジョブ型雇用”と”成果主義”もなかなか普及していない。しかし、近い将来そういった動きが加速される時が来る。

 

そうなったときに、個人が生き残るためには、労働者としての意識を変える必要があると思う。社員個人が会社への依存を減らして、独立志向になり、それぞれがプロフェッショナルな働きをするようになるべきだと考える。私はそれを「ソロプレナー」と呼んでいる。ソロプレナーになることが、個人の収入を増やす最大の武器になる。”ソロプレナー”については、以前の記事「あなたは兼業できますか?」やeブック「ソロプレナーという働き方~サラリーマンが副業で始める個人事業~」で紹介しているので、合わせて参照いただきたい。

 

 

 

 

 

 

 

 

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2021年9月26日 (日)

45歳定年の本質

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「45歳定年制の導入」というサントリー社長の発言が波紋を呼んでいる。定年の年齢が伸びている日本の社会に逆行して、経営者の利益だけを主張しているようにも聞こえるが、話はそう簡単ではない。以下に私なりの解説を試みる。

 

誤解を恐れずに言うなら、会社側の本音はこうだ。新卒で20年働けば45歳くらいだ。20年同じ会社にいれば、仕事ができる人とできない人が見分けられる。仕事ができない人は替りがいくらでもいるので、給料の安い人を雇いたい。逆に仕事ができる人には、給料を増やしてでもいてもらいたい。

 

45歳で全員クビだと言っているワケではない。言い方をかえると、45歳で再雇用のフェーズに入るということだ。再雇用になると給料が減るのでそれを覚悟してください。ただ、会社が認める能力のある人は、雇用契約を変更して給料が上がる場合もあります、ということだろう。さらに視点を変えて見ると、現時点でも45歳~50歳で早期希望退職のインセンティブが最大になる人事制度を採用している会社はたくさんある。実はもう始まっているのだ。

 

日本の企業は、定年を65歳まで延長して、さらに70歳までの雇用が努力義務になっている。しかし、定年間際や再雇用して給料を減らしても、仕事をせずにブラブラしている社員がいる(多い)。これをフリーライダーと呼ぶ。会社が本当に欲しいのは、プロフェッショナルとして働いてくれるひとであり、フリーライダーではない。

 

一方、社員の立場で考えると、60歳まで同じ会社で働くことを前提にして、住宅ローンや教育資金をまかなうつもりでいる。転職なんか考えたこともない。会社では、できるだけチャレンジをしないで、大きな失敗をしないように働いていれば、60歳までの収入が保証されている。安心だ。サラリーマン時代の私自身も頭のどこかでそう思っていた。程度の差こそあれ、会社員は皆そう思っているのではないだろうか。

 

こうした社員の過度の依存意識が、日本企業の生産性を低下させている一つの要因になっていると感じる。戦後から70年続いた日本独特の終身雇用は、高度成長期には最大限のメリットが発揮されたが、直近の20年ではデメリットの方が目立っている。これを改善するためには、社員がモチベーションを高めて、クリエイティブな仕事をするようになることが必要だ。つまり、サラリーマンといえども、社員ひとり一人がプロフェッショナルにならなければならないということだ。

 

社員が会社への過度の依存をやめて、常に独立を意識しながら、プロフェッショナルとして仕事をするようにならなければならない。そのためには、定年を延長するのではなく、逆に短くする方が理にかなっている。

 

プロフェッショナルとは

 

ある人がこう言っていた。プロフェッショナルを日本語で言うと「自己責任型独立仕事人」なのだそうだ。自己責任型というところに重みを感じる人が多いだろう。重みを感じた人は、会社への依存意識が強いからではないだろうか。プロフェッショナルの反対は、「会社に依存して自分では責任を取らなくてよく、大した成果も出さない人」となる。

 

45歳定年は怖くない

 

サラリーマンをやっていると、会社の看板がなくなったときに自分が世の中で通用するか、とはなかなか考えない。会社の中ではそこそこ仕事ができていると自信を持っている、という人も多いのではないだろうか。しかし、社内の調整やコミュニケーションは、社内独特の言葉や文化そして人脈で成り立っている場合が多い。これは、社外では全く通用しない。世の中では、何の役にも立たないと思った方が良い。

 

定年が45歳になったとすると、それ以降は会社が守ってくれないので、自分で稼ぐ能力を身につけなければならない。つまり、サラリーマンと言えども、独立して社外でも通用する人材になれ、ということだ。45歳の定年までに、社外でも通用するプロフェッショナルになれば良いということだ。私はこれを「ソロプレナー」と呼んでいる。

 

社外で通用するためには、自分の専門分野で世間からみてプロフェッショナルと言えるレベルの知識とスキルがあることだ。知識やスキルがプロフェッショナルと言えるのは、“人に教えることができる”(あるいは“人の手本になる”)レベルでなければならない。(*1) 人並にできているというレベルではダメだ。

 

私が今年初めに出版したeブック「ソロプレナーという働き方 ~サラリーマンが副業で始める個人事業~」(*2) で、プロフェッショナルになるために必要な知識・スキル・コンピテンシーについて詳しく解説しているので、興味のある方はこちらを参照いただきたい。同書では、“サラリーマンがプロフェッショナルになって、副業としてスモールビジネスを始めよう” という趣旨で解説をしている。

 

つまり、サラリーマンをやりながらでも、副業ができるくらいの能力を身に着けていれば、45歳定年も怖くないということだ。若いときから、そういう意識でサラリーマンをやるべきなのだ。

 

ただし、今のサラリーマン全員に一斉にこの制度を適用すべきではない。60歳定年のつもりで働いている社員に対しては、基本的にはそれを保証すべきだろう。途中でルールを変更するのはフェアではない。早期希望退職の制度は今でもあるのだから、希望する人はそれを利用して独立や転職をすることができる。これから採用する人に対して、採用の時点で定年の年齢を明示したうえで採用すればよい。(注:個人の意見であり、法律に適合しているかは未確認)

 

 

サラリーマンの副業は増えるのか

 

パーソル総合研究所によると、55%の企業が正社員の副業を容認しているという。前回の2018年の調査から3.8ポイント上昇している。(*3)

 

 

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自社の正社員の副業を企業が容認・禁止している割合(出典:パーソル総合研究所)

 

また、副業者を受け入れる企業も多いようで、その理由は「多様な人材確保が可能だから」(26・4%)がトップ。これを規模別にみると、大手企業では人材確保よりも「新規事業の立ち上げ/推進」や「新たな知識・経営資源の獲得」「オープンイノベーションの促進」など、新規事業やイノベーション関連の理由が目立った。(*4)

 

副業を容認している企業が増えているが、社員に対して特別な働きかけをしている企業は少ないようだ。副業してもいいけど、積極的に勧めてはいないといったところだろうか。実はここには、改善の余地があると思う。

 

体脂肪計のタニタは4年前から「個人事業主」の制度を導入して、成果を出し始めている。希望する社員が会社を退職して、個人事業主として退職前と同じポジションで会社と業務委託契約を結ぶというものだ。いまでは社員の約1割がこの制度を利用している。制度を利用した個人は収入が増えて、仕事の幅が広がり、実績も残しているようだ。そして、タニタ以外の仕事にも手を広げている人もいるという。

 

兼業や副業の働き方として、タニタの事例は完全に会社から独立するケースだが、パーソルの調査は、会社員の地位を維持したまま副業をすることを認めている会社が半数以上あるということだ。

 

サラリーマンが会社との雇用関係を維持したまま副業をして成功するためには、その人の能力やスキルが特定の分野で秀でていることが求められる。すでにプロフェッショナルな仕事をしている人は、その気にさえなれば副業ができる状態にある。まだプロフェッショナルな領域になっていない人は、自分の専門分野でスキルを磨くことによって、プロフェッショナルを目指すことができる。

 

プロフェッショナルな仕事をしている人が社外の仕事(副業)をするということは、その人のスキルをさらに高めるといいうことで、それは同時に会社の業務にも還元されて、会社でもさらに成果を出してくれることになる。つまり、副業は社員と会社の両方にメリットがある。

 

会社側から積極的に社員に副業を奨励したり、副業ができる社員を増やすための社員教育をすることが、結果として業績を伸ばすことにつながることになるし、フリーライダーを減らすことにもつながる。企業の人事担当の方には、ぜひ真剣に考えてみていただきたい。

 

 

 

(*1) 株式会社スキルアカデミー、「キャリアビルダー “能力プロファイリング編” 」より

(*2) 株式会社スキルアカデミー、「ソロプレナーという働き方~サラリーマンが副業で始める個人事業~」

(*3) 出展:日刊工業新聞 2021年8月13日

(*4) 出展:ITmedia 2021年08月12日

 

 

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2021年9月 6日 (月)

アメリカで見つけた、おもしろ新技術(8); シャコパンチ

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シャコの仲間で ”mantis shrimp” というザリガニがいる。このザリガニは水中で貝にパンチをして殻を割って中身を食べる。そのパンチ力は水中の生物で最強だと言われている。

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A mantis shrimp. Credit: Silke Baron

水の抵抗を受けながら硬い貝殻を割る衝撃力は確かにスゴイ。それだけの強力なシャコパンチだが、なぜシャコの腕は壊れない(ケガをしない)のだろうか。その謎を解明した先生がいる。カリフォルニア大学リバーサイド校のDavid Kisailus教授だ。

先生の解析によると、シャコの腕はパンチをしたときに2度の衝撃を受けるという。最初の衝撃は相手の貝殻に衝突したときの反作用で2度目の衝撃は反発の際に接触面近傍が真空になりその“泡”が消滅するときの衝撃、つまりキャビティ効果の衝撃なのだとか。シャコの爪はそういった2度の衝撃に耐えることができる。

先生は、シャコの爪の内部構造を詳細に観察し、再表面が硬くその内側に衝撃を吸収する微細構造があることをつきとめた。

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(Image: by David Kisailus , UC Riverside)

この構造を模倣することで、人工的に耐衝撃材料をつくることができる。それは薄い形状でも分厚いウレタンと同じような衝撃吸収能力があるのかも知れない。ヘルメットや航空機、宇宙船の材料など用途は広い。

先生は、シャコパンチ以外にキツツキの脳みそがなぜ動かないのかという研究もしている。ユニークだ!

 

 

 

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2021年8月18日 (水)

電気自動車(EV) への転換が加速する

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先月、EUが2035年にはガソリン車の販売を禁止すると発表した。これで、電気自動車(EV) への移行が現実的になったと思う。

 

各国の政府がEVへの移行を表明するのは、これが初めてではない。2017年頃に欧州を中心に政府の方針を示した国がある。ただ、この時は政治的なパフォーマンスの面もあるのではないかとも見受けられた。

 

2017年頃の各国の方針

イギリス

2040年までに国内でのガソリン車とディーゼル車の販売を禁止

フランス

2040年までにガソリン車、ディーゼル車の販売を禁止

ノルウェー

2025年までにEVとPHVにすることを目指す

オランダ

2025年にディーゼル車とガソリン車の禁止を目指す

ドイツ

一部の州で、2030年までにガソリン車をフェードアウト

インド

2030年までにディーゼル車とガソリン車の廃止を検討

 

実は2017年時点で、米国で販売されていたEVは10車種以上あった。しかし、実用的なEVは少なく、売れていたのはTeslaくらいだった。その後、Boltやi3、リーフなどが台数を伸ばすようになった。

 

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今回のEUの方針は、非常に現実的で実効性が高いと感じられる。2017年の頃と比べてEVの技術開発が進み、量産体制も少しづつできてきた。そして、何より販売台数がそれなりに増えてきた。2035年というタイミングも絶妙だ。不可能ではないけど、実現するにはかなりの努力が必要だ。

 

努力の中身は巨額の投資と産業構造の転換だ。投資については、すでにメーカー各社は計画を発表している。世界のEVとPHVの販売台数は2020年で約320万台だった。世界全体の自動車販売台数が5,600万台なので、割合でいうと6%弱しかない。全部をEVの生産に移行すると、さまざまな社会問題が生じる。エンジンやトランスミッションを製造する企業やガソリンスタンドと石油企業の一部がいらなくなるという、大問題が起こることになる。日本の自動車メーカーでは、EV転換のための人員削減がすでに始まっている。逆に、バッテリーとモーターを製造する会社が生まれ、AIを中心としたIT企業が伸びることになる。極端なケースでは、トヨタがGoogleやAppleの生産工場になる。水素エンジン車で時間稼ぎをしている場合ではない。

 

日本に住んでいると実感がないと思うが、カリフォルニアでは1日でテスラを100回以上見かける。冗談でも誇張でもない。実際に数えてみたことがある。昨年から今年にかけて、昼間と少し遅い夕方の時間に15分程度の場所に定期的に通っていた。その運転中にテスラを見かける回数を数えてみると、10分間で12台から15台くらいのテスラを見かける。日を変えて何度か繰り返してみても同じような台数を見かける。つまり、1時間ドライブすると90台くらいのテスラを見かけることになる。世界ではEVへの転換がすでに始まっているのだ。

 

最後に、ガソリン車がEVに置き換わる理由を見ておこう。EVの利点はおおむね以下のようなものがある。

  • 排ガスがない
  • エネルギー効率が高い
  • 独立電源の可能性
  • 制御性の良さ(自動運転)
  • 製造工程が簡略
  • 保守・点検が少ない
  • 騒音が小さい

 

この中で、特に注目すべきはエネルギー効率だ。下の図は、慶応大学の清水先生の計算による、ガソリン車とEVのエネルギー効率の比較である。両方とも原油を出発点にして計算している。EVでは(原子力ではなく)火力発電の電力を使うことを前提に計算しているにもかかわらず、35%という高いエネルギー効率を実現している。一方、ガソリン車ではエンジンとトランスミッションの効率の悪さが原因で8.6%と低いことがわかる。将来、再生可能エネルギーの電力が利用できるようになれば、EVのエネルギー効率はさらに高くなる可能性もある。上記の他の利点も合わせると、EVにしない理由がない。

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2021年6月30日 (水)

Amazon Freshに行ってみた

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2017年にAmazonが食品スーパーのWhole Foodsを買収した。Whole Foodsはオーガニック食品を主力にしてブランドを確立していて、北米と英国に500以上の店舗を持っている。

Amazonは、生鮮食品配送サービスとしてAmazon Freshを立ち上げていたが、実店舗をもつ食品スーパーを傘下に入れることで、食品流通のノウハウを手に入れることができる。

そして昨年、Amazonは自らの実店舗をロサンゼルスに作り始めた。現時点でカリフォルニアに8店舗、シカゴに4店舗、他に2店舗を出店している。

今回は、ロサンゼルス近郊の店舗に行ってみたので、その様子を紹介する。

場所は大型のショッピングモールの一角で、店の広さはアメリカの一般的なスーパーのチェーン店と同じくらい。商品棚の構成や陳列も普通のスーパーと変わらない。店に入って最初に目についたのが、初めてみるショッピングカートだ。10インチくらいのディスプレイとバーコードリーダーがついている。
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             ショッピングカート                             店内

 

事前にスマホに専用アプリを入れて自分の情報を登録しておけば、そのカートで支払いが完結できて、レジに並ぶ必要はない。専用アプリの登録のために、プライム会員になる必要はないという。(今回は初めてだったので、カートは使わずにレジで精算した。)

この店が一般の食品スーパーと違うのは、店のスタッフが発送のための商品をピックアップしていて、そのためのスタッフの数が客と同じくらいいることだ。つまり、オンラインで注文を受けた品物の配送センターの役割をしていて、その売り上げが来店客よりも多いことが推察される。
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スタッフが発送用の商品をピックアップしている様子

 

一般の食品スーパーでもオンライン注文の配送サービスをしているが、それほど普及しているとは言えない状況だ。そこにAmazonが参入するとスーパーの店が配送センターになる。発想の転換だ。店で商品を一度見ておけば品物の状態が分かるので、次からは安心してネットでも注文できる。

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Amaznon FreshのWebサイト

 

小売業界でのAmazonの最大のライバルはWalmartだ。Walmartは食品から雑貨、日用品、薬局を含めた世界最大のスーパーマーケットだ。食品、特に生鮮食品は取り扱いが特殊なので、まずはWhole Foodsを買収してそのノウハウを手に入れた。そしてそれをもとに、スーパーの商品棚を配送センターの”倉庫”として兼用するという、新しいスタイルの店舗を作った。

 

 

 

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2021年6月27日 (日)

アメリカで見つけた、おもしろ新技術(7); 4D印刷

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第7回は4D印刷というもの。3D印刷のさらに先をいく4D印刷とは何なのか・・・

4D印刷とは、3D印刷で作製した”物”が熱や光、湿度他の環境に暴露されることで時間の経過とともに形状や特性を変化するというコンセプト。

Georgia Institute of TechnologyやDartmouth Collegeなどで研究されている。

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(Image: by Chenfeng Ke , Dartmouth College)

 

この写真はDartmouth Collegeのデモである。G1というハイドロゲルを3D印刷し、それを室温乾燥あるいは700℃加熱することでサイズが小さくなる。

 

Georgia Techでは自己組織化材料を使って印刷後に形状を変える4D印刷の研究をしている。ハイドロゲルだけでなく、銀ナノインクや液晶エラストマー、形状記憶ポリマーなどの材料を使って、外的要因によって形状が変化する機能の開発を目指している。

 

実用化にはまだ遠いレベルだが、これが実現すれば高度によって主翼の形状を変える飛行機や、小さく折りたたんで保管してお湯をかけると展開する災害用簡易住宅、ガン細胞の場所で鋭利な刃物になるナノ粒子など、今の技術では考えられない用途が生まれる可能性があるのではないだろうか。

 

 

 

 

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