« OTT Video | トップページ | CES2016 5つのポイント »

2015年11月29日 (日)

医療保険の話

700hospital1

毎年この時期になると、医療保険の見直しで憂鬱になる。アメリカの医療保険は、毎年11月から12月にかけて契約更新をする。アメリカの医療保険は複雑でわかりにくい。そして、保険料がとんでもなく高額で、補償内容には納得ができない。オバマケアが始まってからはなおさらだ。それに輪をかけて、保険会社のあからさまな営利目的の態度が、この上なく腹立たしい。

愚痴ばかりを並べてもしかたがないので、今回は、アメリカの医療保険の現状を、改めて解説する。

国(連邦政府)が国民に提供する医療保険は、連邦政府が65歳以上のアメリカ市民に提供するMedicare(メディケア)と、州政府が低所得者に提供するMedicaid(メディケイド)の2種類がある。身体障害者と慢性腎不全患者はMedicareでカバーされる。つまり、若くて健康な人には政府が提供する医療保険はない。

一方、企業は従業員に対して医療保険を提供している。これは、企業が個別に保険会社と契約をして、自己資金のグループ保険を運用する形だ。遡ること、1930年代の大恐慌のときに、政府が企業に対して従業員の医療保険の掛け金を免税対象にしたことでこの形が定着し、現在に至っている。企業が保険を提供できるのは、ある程度の規模の会社だ。中小企業や自営業の人は個人で保険会社から医療保険のプランを買うしかなく、これが割高で保険を買えない人が出てくる。これが無保険者だ。図で示すとこのようになる。

1b


オバマケアはこれを変えようとして始まったのだが・・・

現状は、企業保険の部分は手を付けずに、“個人保険”と“無保険”の人たちをひとくくりにして、加入を義務付けた。同時に所得の低い人には補助金を出す。この補助金は、同じグループ(“個人保険”と“無保険”の人)の中で賄うので、所得が中~高の人達が、補助金の対象者の分も払う形になっている。つまりその人たちは保険料が高いということだ。

実際にどれくらい高いかを、お教えしよう。

私と家内の2人の今年の医療保険は月額$1,050、年間で$12,600だ。1ドル120円で換算すると150万円を超える。これで、すべての医療を受けられるかというと、そんなことはなく、いわゆる免責額が$6,000もある。つまり、最初の$6,000は自腹で、それ以上になった場合に保険が払うという仕組みだ。ただ、年3回までの診察や簡単な健康診断は保険でカバーしている。

医療保険が高額な理由はいくつかあるが、最大の原因は医療費が出来高払いであることと、医療保険が営利事業であることだ。先進医療など治療の種類でも金額が異なるが、同じ治療でも病院や医者によって値段が違う。保険会社の利益は莫大で、アメリカの主要都市はどこに行っても一番立派なビルには大手の保険会社が入っている。

さらに状況を複雑にしているのは、医者や病院、X線技師、麻酔医など支払いが別で、治療の数か月後にバラバラに請求が来る。逆に、治療を始める前に総額を聞いても誰も答えてくれない(答えられない)という信じられない状況が普通に起こる。

2b


このような状況の中で生活していると、医療保険は事故や重病で大きな手術をしたときに、自分が破産しないための自衛手段という位置づけで考えるしかない。つまり、ちょっとカゼをひいたくらいで気軽に医者にかかれる状況ではない。

ここで説明したのは、オバマケアの目的の一つである“保険制度の改革”の部分で、私がアメリカに住んで体験していることである。

オバマケアには大きく2つの目的がある。一つは“保険制度の改革”で、保険の効率化と無保険者の解消である。もう一つは、“医療制度の効率化”でEHR(電子カルテ)やACO (Accountable Care Organization)の構築だ。いずれも過渡期であり、現状ではうまく機能していない。来年の大統領選挙で共和党が政権をとれば、医療改革そのものが頓挫する可能性もある。

仮にオバマケアの改革が完成したとしても、保険会社が現状の利権を手放さないだろうから、一般市民にどれだけメリットがあるかは疑問だ。アメリカの自己破産の大半の原因は医療費と離婚、という現状は変わらないのではないだろうか。

それと比較すると、日本の医療保険制度は素晴らしいと思う。もちろん、制度としての細かい欠陥はあって、医療や介護の現場の皆さんの努力によって成り立っていることは十分承知している。それでも、アメリカの状況と比べると格段に良いシステムだ。日本に住んでいるときは気づかなかったが、日本の医療保険制度は国民の利益のために堅持するべきものだ。

 

    欧米での新技術調査、オープンイノベーションのご相談は TechnoScape, LLC まで。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

« OTT Video | トップページ | CES2016 5つのポイント »

テクノロジー・サイエンス」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く

コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 医療保険の話:

« OTT Video | トップページ | CES2016 5つのポイント »